第二章・「安息」その30
票終えてゆっくりと押す車椅子
コンクリートの校庭に残った小さな水溜りを避けながら
父を車椅子に乗せてゆっくりと押していきます
投票を済ませた梅雨上がり、夏はもうすぐそこです
地元より実家で顔売る町内会
横浜の自宅の自治会はこれまで、すべて妻任せでした
同じ階段を使う班の住人の方たちの顔と名前が一致しません、でも
毎週末、路地を散歩する妻の町内会では、声を掛けられるまでになりました
午前五時痛みで目覚めエセ処方
脳、頚椎、腰骨に転移した癌細胞はじわじわと妻を苦しめます
体力的に抗癌剤は使えない妻は、放射線の対処療法で凌ぐだけです
いつ襲ってくるのか分からない痛みに、僕は、何もしてあげられません
s_yamamo@